▼古文書に潜む「野槌」
ツチノコは、藁を打つ道具の横槌に似た、胴の太い蛇として語られる。伝承では、体を屈伸させて進み、ときに2メートルほども跳ぶという。地方によって「バチヘビ」「ノヅチ」など、呼び名はさまざまだ。
その源流は古い。『古事記』『日本書紀』には野の神「野槌(のづち)」の名が見え、江戸時代の1712年に成った百科事典『和漢三才図会』には「野槌蛇」の項がある。山に棲む太く短い蛇の姿は、数百年前から人々の想像をとらえてきた。
▼1970年代の大ブーム
ツチノコの名が全国に広まったのは1970年代である。1973年、漫画家・矢口高雄が『幻の怪蛇バチヘビ』を発表し、テレビや雑誌も競って取り上げた。各地で目撃談が相次ぎ、自治体や団体が高額の懸賞金を掲げるまでになった。
▼村をあげての大捜索
とりわけ目撃が多いとされるのが、岐阜県東白川村である。1989年、村は村ぐるみの大捜索を行い、これをきっかけに毎年5月3日前後に「つちのこフェスタ」を開くようになった。全国から集まった「ハンター」たちが、懸賞金をかけて山中を探し歩く。
懸賞金は100万円から始まり、見つからないまま毎年1万円ずつ積み増されている。確実な捕獲例はいまだ一つもない。だが、毎年集まる人々の熱気こそが、幻の蛇が生きている何よりの証なのかもしれない。
正体をめぐる諸説
- 壱
獲物を飲んだヘビ説
ヤマカガシやマムシが大きな獲物を飲み込み、胴が膨らんだ姿を見間違えたとする説。もっとも有力とされる。
- 弐
外来トカゲ誤認説
飼育されていたアオジタトカゲなど、胴が太く脚の短いトカゲが逃げ出し、蛇と見間違えられたとする説。
- 参
未知の爬虫類説
日本の山中に、まだ学術的に記載されていない胴の太い蛇が生き残っているとする説。
