▼寺の裏を流れる小さな淵
遠野市土淵町の常堅寺は、1490年に開かれたと伝わる曹洞宗の寺である。その裏手を流れる小川の淀みが、カッパ淵と呼ばれる。かつてここには多くの河童が棲み、人を驚かせていたと語り継がれてきた。
常堅寺の境内には、頭に皿のくぼみを持つ珍しい「カッパ狛犬」が座る。寺が火事になった際に河童が火を消し止めたという言い伝えがあるといわれ、この地では河童は恐ろしいだけの存在ではない。
▼『遠野物語』の河童たち
1910年、民俗学者・柳田国男は、遠野出身の佐々木喜善が語った土地の伝承をまとめ、『遠野物語』として世に出した。そこには河童の話がいくつも収められている。川辺につないだ馬を水中に引き込もうとして失敗し、捕らえられた河童が二度といたずらをしないと約束して許される話は、その代表である。
遠野の河童は顔が赤いと語られ、各地で伝わる青や緑の河童とは趣が違う。土地ごとに姿を変えるのも、河童という怪異の面白さだ。
▼許可証を手に、淵へ
現在、遠野市観光協会などでは「カッパ捕獲許可証」が販売されている。捕獲には守るべき「7か条」があり、河童を傷つけないことなどが定められている。淵ではキュウリを竿に吊るした「カッパ釣り」を楽しむ人の姿も見られる。
もちろん、捕らえたという報告はまだない。だが静かな水面を見つめていると、緑の草陰から何かがこちらをうかがっているような気がしてくる。
正体をめぐる諸説
- 壱
水辺の動物誤認説
カワウソやスッポン、サルなど、水辺に現れる動物を見間違えたことが伝承の素地になったとする説。
- 弐
水難への戒め説
子どもが川で溺れないよう、水辺の危険を怪異の姿で語り伝えたとする民俗学的な見方。
- 参
水神零落説
かつて祀られた水の神が、信仰の衰えとともに妖怪へと姿を変えたとする民俗学の説。
