▼神殿の地下室の浮き彫り
デンデラのハトホル神殿は、プトレマイオス朝のプトレマイオス12世の時代に建設が始まり、ローマ帝国のアウグストゥスやネロの時代に完成したとされる。神殿の地下には合わせて12の部屋(クリプト)がある。
問題の浮き彫りは、南側の地下室と神殿内の一室に刻まれている。ハスの花から立ち上がる蛇が、細長い楕円形の入れ物の中に描かれ、その入れ物をジェド柱(安定を表す柱)や、腕を上げた人物が支えている。
▼「電球」説の登場
1982年、ペーター・クラッサとラインハルト・ハベックは共著『ファラオのための光』で、この図は古代エジプトの電気の照明を描いたものだと唱えた。楕円の入れ物はガラス球、蛇は中で光る放電という見立てである。
二人とともに活動した電気技術者ヴァルター・ガルンは、浮き彫りの比率どおりにガラス球を作り、空気を抜いて電圧をかけると、中に蛇のような放電の光が現れたと報告した。電球説では、墓の中にたいまつのすすが少ないことも、電灯を使った証拠に挙げられる。
▼神話を描いた図
エジプト学では、この図はハルソムトゥス神が蛇の姿でハスの花から現れる、天地創造の神話の場面と解釈されている。楕円の入れ物は天空の女神ヌトの胎内を表すともいわれ、図の横には神像の大きさや作り方が文字で記されている。
地下室は冥界になぞらえられ、浮き彫りは中に納められていた神像を描いたものと考えられている。考古学者ケネス・フェダーは、電球の残骸が一つも見つかっていないことを指摘し、すすについては鏡で光を導いたり、たいまつに塩を加えたりする方法で説明できるとしている。
正体をめぐる諸説
- 壱
創造神話の図像説(通説)
ハスの花から蛇の姿の神が生まれる、エジプトの天地創造の神話を描いたものとする見方。
- 弐
古代の電灯説
ガラス球の中で放電を光らせる照明器具を描いたものだとする、クラッサとハベックらの説。
- 参
失われた超古代技術説
古代エジプトには、のちに失われた高度な電気技術があったとする説。
