▼仏典の理想郷シャンバラ
シャンバラは、チベット仏教の『カーラチャクラ・タントラ』に説かれる理想の王国である。カーラチャクラの教えは11世紀にチベットに伝わったとされ、未来にはシャンバラの王が現れて悪の勢力を打ち破り、黄金時代を開くと語られる。
西洋では、1627年にポルトガルの宣教師エステヴァン・カセラが「シェンバラ」の名を初めて報告した。
▼地底王国アガルタの誕生
「アガルタ」の名は、フランスのルイ・ジャコリオが1873年の著作で、紀元前からのインドの都として書いたのが始まりとされる。地下の王国ではなかったこの話を、サン=ティーヴ・ダルヴェードルが1886年に書いた『インドの使命』(刊行は1910年)で、数百万の人々が住み優れた王が治める地下都市へと作り変えた。
1922年、ポーランドの作家フェルディナンド・オッセンドフスキが『獣・人・神』でアガルタを紹介し、オカルトの外にまで知られるようになった。1927年にはルネ・ゲノンが『世界の王』で、アガルタを世界の霊的な中心として論じている。研究者は、ジャコリオの話は歴史的な資料ではなく創作だった可能性が高いとみている。
▼入口を探した人々
1920年代には、神智学に影響を受けた人々やソ連の当局者までもがシャンバラを探す探検を計画した。画家ニコライ・レーリヒと妻エレナは1924年から1928年にかけて中央アジアを旅し、アルタイ山脈のベルーハ山がシャンバラの入口だと考えた。
1933年には、シャンバラの伝説に影響を受けたとみられるジェームズ・ヒルトンの小説『失われた地平線』が、ヒマラヤの理想郷「シャングリラ」を描いた。アガルタは、のちに地球空洞説とも結びつけて語られるようになった。
正体をめぐる諸説
- 壱
仏教の象徴説
シャンバラは実在の場所ではなく、カーラチャクラの教えが説く精神的な境地や象徴だとする見方。
- 弐
19世紀の創作説(有力)
地底王国アガルタは、ジャコリオやサン=ティーヴらのオカルト著作から生まれた近代の創作だとする見方。
- 参
地底文明実在説
ヒマラヤやアルタイの地下、または地球内部に、高度な文明を持つ人々が今も住んでいるとする説。
