▼玉藻前と九尾の狐
伝説によれば、鳥羽上皇に寵愛された美女・玉藻前(たまものまえ)の正体は九尾の狐だった。陰陽師の安倍泰成に見破られた狐は東国の那須野へ逃れ、討伐軍に追い詰められて石に姿を変えたという。
石になった後も狐の怨念は毒を吐き続け、近づく人や鳥獣の命を奪ったと語られる。至徳2年(1385年)には玄翁(げんのう)和尚が石を打ち砕き、その破片は全国に飛び散ったと伝えられる。
▼毒気の正体
石の周辺では、硫化水素や亜硫酸ガスなどの火山ガスがいまも噴き出している。草木がまばらな景色も、生き物が倒れたという言い伝えも、このガスと無関係ではないだろう。
松尾芭蕉も『おくのほそ道』の旅でこの地を訪れ、「石の香や 夏草赤く 露暑し」と詠んだ。殺生石は2014年3月18日、国の名勝に指定されている。
▼2022年、石が割れた
2022年3月5日、殺生石が二つに割れているのが確認された。数年前からひびが入っていたとされ、那須町は自然に割れた可能性が高いとの見方を示した。
それでも「封印が解けた」と話題が広がり、3月末には慰霊祭と平和祈願祭が営まれた。科学で説明がついても、人々が石の前で手を合わせずにいられないのが、伝説の力なのだろう。
正体をめぐる諸説
- 壱
火山ガス説
石の周囲に噴き出す硫化水素などの有毒ガスが、生き物を倒す「殺生」の伝説を生んだとする見方。
- 弐
封印解放説
2022年に石が割れたのは、封じられていた九尾の狐の封印が解けた兆しだとする説。
- 参
風化による割れ説
以前から入っていたひびが、雨水の凍結や温度差による風化で広がり、自然に割れたとする見方。
