▼十枚の皿と一人の女
江戸時代後期の『播州皿屋舗実録』などによれば、物語の舞台は戦国時代、小寺則職が城主だったころの姫路城である。家老の青山鉄山は城の乗っ取りを企んでいた。
鉄山の一味・町坪弾四郎は、家宝の皿十枚のうち一枚を隠し、その紛失の罪を腰元のお菊に着せた。お菊は責め立てられたすえに斬られ、古井戸に投げ込まれたという。以来、井戸からは夜ごと皿を数える声が聞こえるようになった。
▼城に残る井戸
お菊井戸は、姫路城の上山里と呼ばれる一角にいまも残っている。皿を数える声が響いたという古井戸は、城を訪れる人々が足を止める名所の一つだ。
物語は1741年、大坂の豊竹座で人形浄瑠璃『播州皿屋敷』として上演され、広く知られるようになった。なお、こうした話の古い形は、1577年の『竹叟夜話』に早くも見られる。
▼お菊虫
1795年、姫路で奇妙な虫が大量に現れたという。人々はお菊の祟りとして「お菊虫」と呼んだ。その正体はジャコウアゲハの蛹ではないかと考えられている。
姫路市は1989年、ジャコウアゲハを市の蝶に定めた。怪談の虫が、いまでは町の象徴の一つになっている。
正体をめぐる諸説
- 壱
お家騒動の反映説
城の乗っ取りをめぐる実際の権力争いの記憶が、お菊の物語に形を変えて残ったとする見方。
- 弐
各地の伝承の移植説
皿屋敷の話は各地に伝わっており、もとになった話が芝居などを通じて姫路に結びつけられたとする見方。
- 参
怨霊実在説
井戸の底にはいまもお菊の霊がとどまり、夜になると皿を数えているとする説。
