▼北欧の海に伝わる怪物
13世紀半ばのノルウェーの書物『王の鏡』には、ハーフグファと呼ばれる海の怪物が記されている。クラーケンの名で呼ばれた最初の記述は、1646年のノルウェー語の語彙集に見られ、多くの腕で船をつかむ海の怪物と説明されている。
名はノルウェー語のクラーケ(krake)に由来するとされる。
▼ポントピダンの博物誌
クラーケンを世に広めたのは、ベルゲンの司教エーリク・ポントピダンの『ノルウェー博物誌』である。1753年の第2巻で彼は、浮上したクラーケンは列島か環礁と見間違えられ、その間を小魚が泳ぐと書き、最大の軍艦さえ海底に引き込めると記した。
ポントピダンはその正体をタコかヒトデの仲間と推定した。博物学者リンネも1735年の『自然の体系』でミクロコスムスという分類を立てたが、のちにこれは小さな生物(ホヤの仲間)とされた。
▼ダイオウイカという答え
1857年、デンマークの動物学者ヤペトゥス・ステーンストルップは、クラーケンの話を巨大なイカ(ダイオウイカ)と結びつけた。1861年にはフランスの通報艦アレクトンがダイオウイカの一部を引き揚げている。
生きたダイオウイカの姿は長く撮影されなかったが、2004年9月30日、窪寺恒己らが東京の南約970キロメートルの小笠原沖で、餌に襲いかかる約8メートルの個体を初めて撮影した。2012年には深海での動画撮影にも成功し、翌年NHKとディスカバリーチャンネルが公開した。
ただし学術的に確かめられたダイオウイカの全長は最大で12〜13メートル程度とされ、20メートルを超えるという話は裏づけられていない。島と見まがうほどの大きさは、伝説の誇張と考えられる。
正体をめぐる諸説
- 壱
ダイオウイカ説(有力)
深海に棲み、まれに海面に浮かぶ巨大なイカの目撃が、怪物の話のもとになったとする見方。
- 弐
複数の現象の混同説
クジラや大きなタコ、海面に浮かぶ漂流物などの見聞が混ざり、一つの怪物として語られたとする説。
- 参
未知の巨大生物説
知られているダイオウイカよりはるかに大きい頭足類が深海に生き残っているとする説。裏づけはない。
