▼果無山脈の一本足
果無山脈は紀伊半島の中央、和歌山県と奈良県の県境に沿って連なる山脈で、最高峰は標高1262メートルの冷水山である。山脈を越える果無峠は熊野参詣道「小辺路」の一部で、十津川と本宮を結ぶ生活の道でもあった。
この山には、皿のような目を持つ一本足の妖怪「一本だたら」がいて、12月20日にだけ現れると伝えられる。この日は「果ての二十日」と呼ばれて厄日とされた。年の果てに現れる怪物が旅人を食べたため、峠を越える人がいなくなった――「果て」に人が「無い」ことからハテナシの名がついたという言い伝えもある。
▼伯母ヶ峰の猪笹王
奈良県の伯母ヶ峰でも、12月20日に山に入ると一本だたらに遭うといわれ、その姿は電柱に目鼻をつけたようだとされる。ここでは一本だたらは、背中に熊笹の生えた大猪「猪笹王」の亡霊とも語られる。
猪笹王は鉄砲打ちの射場兵庫に撃たれた後、一本足の鬼となって峰を越える旅人を襲うようになった。丹誠上人が地蔵を建てて封じたが、「毎年12月20日だけは自由にしてよい」という約束だったため、この日は恐れられたという。
正体をめぐる諸説
- 壱
たたら製鉄の記憶説
「だたら」は製鉄の鞴(たたら)や鍛冶師に通じ、片足で鞴を踏み片目で炉を見る職人の姿が妖怪になったとする説。
- 弐
一つ目の鍛冶神説
一つ目の鍛冶の神・天目一箇神が零落した姿だとする見方。
- 参
山の神説
山の神や道祖神を一本足とする各地の伝承と結びつける説。
