▼溶岩の上の森
青木ヶ原樹海は、富士山の北西のふもと、山梨県富士河口湖町と鳴沢村に広がる約30平方キロメートルの森である。貞観6年(864年)の富士山の大噴火で流れ出た溶岩の上に、およそ1200年かけて育った。
樹海は松本清張の小説『波の塔』に描かれて広く知られ、「自殺の名所」と呼ばれるようになった。同時に「一度入ると出られない」「方位磁針が狂う」といった噂も生まれたが、地中の磁鉄鉱で生じる狂いは1〜2度ほどで、陸上自衛隊も地図と方位磁針で訓練を行っている。
▼「樹海村」の噂
樹海の奥には、自殺をしそこなった人や社会に戻れない人々が集まった集落があり、浮世離れした暮らしを続けている――。こうした「樹海村」の噂は、2006年9月にネットの都市伝説サイトに載った記事などに見られ、2000年代半ばから広まったとみられる。「立ち入り禁止の村」「犯罪者の逃亡先」といった尾ひれもついた。
2021年2月には、この噂をもとにした清水崇監督のホラー映画『樹海村』が公開された。実在の心霊スポットを題材にした『犬鳴村』に続く「恐怖の村」シリーズの第2作である。
▼写真に写っていた村
怪談研究家の吉田悠軌氏が調べると、ネットに出回っていた「樹海村」の画像は、樹海の中にある精進の民宿村だった。昭和42年(1967年)に整地され、集落ごと引っ越してきたため、区画が人工的な長方形に並んでいたのである。
樹海に20年以上通うルポライターの村田らむ氏も、樹海の中にあるのは70軒あまりの民家と10軒ほどの民宿が並ぶ「民宿村」で、恐ろしい村ではないと述べている。
正体をめぐる諸説
- 壱
民宿村の見間違い説(有力)
樹海の中にある精進の民宿村の整った区画が、ネット上で「隠れ集落」として語られたとする見方。
- 弐
樹海ルポの流行が生んだ説
2000年代の樹海探訪記の流行や、オウム真理教事件の記憶が、噂の下地になったとする説。
- 参
隠れ里実在説
樹海の奥に、外の世界と関わらずに暮らす人々が今もいるとする都市伝説。裏づけは見つかっていない。
