▼断崖の村で聞いた星の話
フランスの人類学者マルセル・グリオールは、1931年からバンディアガラの断崖に暮らすドゴンの人々の調査を始め、のちにジェルメーヌ・ディテルランとともに長く現地に通った。断崖は高さ約500メートル、長さ約150キロメートルに及ぶ砂岩の崖である。
二人は1950年の論文「スーダンのシリウス体系」で、ドゴンの長老たちがシリウスに「ポ・トロ」と呼ぶ小さく重い伴星があり、約50年かけて巡っていると語ったと報告した。この内容は1965年の著書『青い狐』にもまとめられている。
▼『シリウス・ミステリー』
シリウスの伴星シリウスBは、1862年にアメリカの天文学者アルヴァン・グラハム・クラークが初めて捉えた白色矮星で、肉眼では見えない。小さく重く、約50年の周期で巡るという報告の内容は、この星の性質とよく重なっていた。
1976年、ロバート・テンプルは著書『シリウス・ミステリー』で、ドゴンの知識はシリウスの方から来た知的生命体が太古に伝えたものだと主張した。本は評判を呼び、ドゴンの名は古代宇宙飛行士説の代表例として知られるようになった。
▼再調査が示したこと
1991年、人類学者ウォルター・ファン・ベークは現地で改めて聞き取りを行い、ドゴンの人々の間で「ポ・トロ」がどの星を指すのかすら一致せず、シリウスを二重星とみなす考えも見つからなかったと報告した。話を知る人は、それをグリオールから聞いたと語ったという。
天文学者のカール・セーガンらは、伴星の知識は宇宙人ではなく、ヨーロッパから持ち込まれた天文学の話が混じった可能性を指摘している。グリオールらの記録そのものの確かさにも、疑問が投げかけられている。
正体をめぐる諸説
- 壱
西洋の知識の混入説(有力)
宣教師や旅行者、調査者との接触で伝わった近代天文学の知識が、聞き取りの中で神話と混ざったとする見方。
- 弐
調査者の解釈説
グリオールらの問いかけや解釈が、ドゴンの人々の言葉を実際以上に天文学的なものとして記録させたとする説。
- 参
異星からの来訪者説
シリウスの方から来た存在が太古に知識を授けたとする、テンプルらの古代宇宙飛行士説。
